目が覚めると茶柱になっていた。
目が覚めるとティーパックの中の茶柱になっていた。
いや、正確に言えばお茶の葉の中に紛れ込んだ茶の葉の茎になっていた。
まぁ、いずれお茶として世間に出れば茶柱になる。どうか、自分のことを茶柱と呼ぶことを許して欲しい。
そうか、ずっと俳句のことばかり考えていたから、俳句が書いてある包装に包まれたティーパックの茶柱になってしまったようだ。
茶柱になった自分にとってはティーパックはそこそこ居心地の良いものだった。
周りの湿度も心地よいし、何より自分の周囲は穏やかな緑茶の香りに包まれている。
俳句詠みだった頃の自分はとにかく自尊心を持ち余らせていて、この俳句が書いてあるティーパックの緑茶メーカーの俳句を見ては、なんでこんなモノが評価されるのだろう、自分の作るものの方がずっと良いのにと常に不満を抱えていた。
「滑稽だな」
そんな自分が俳句が書かれた包装に守られた茶柱になっている。
いつか芽が出て俳句の世界に革命を起こすのだと信じ込んでいた自分は、芽を通り越して茶柱になるなんて。
緑茶はお茶の木の新芽を収穫した後、焙煎されたり、揉まれたりしてお茶の葉として出荷されるらしいが、自分はそんな記憶もなくいきなりティーパックの中だ。
まぁ、いい、そんな理屈はどうでも良い。
温かなティーパックと豊かな緑茶に包まれて少し眠ることにした。
春・夏・秋・冬・新年に分かれている分厚い歳時記。
今の季節はすっかり春なのに探せども、探せども春の歳時記が見つからない。
中七、下五は完璧なモノが出来ている、あとは季語を合わせるだけなのに歳時記が見つからないのだ。
手から天才的な俳句がこぼれ落ちていく…。
はっとして目が覚めると、自分は変わらずティーパックの中だった。
「茶柱でも夢を見るんだな」
真っ暗闇のティーバックの中で心の中で呟いた。
もしも、自分が包装に俳句が書いてある某社製の緑茶ティーパックの中に居るのであるのなら包装にはどんな俳句が書いてあるのかが気になった。
自分の最後はどんな俳句に包まれているのか、それを知りたくなるのが俳人の最後の性というものだ。
身体は茶柱で、自らの意志ではほとんど動けないが、渾身の力を入れると少し身を震わせることが出来る。
自分の周りにある、ティーパックの紙の部分を少しずつ身を震わせながら削り取っていくこととした。
真っ暗闇の中で身を震わせ、少しずつティーパックを削り取る作業。
時間なんかさっぱりわからないし、1日なのか、半月なのか、1年なのかすらわからないなか、身を震わせ、ティーパックに微細な穴を開けた。
日本沈没
日本は海外から一気呵成に攻め込まれていた。
西側から攻め込んできた海外の軍隊は平和ボケした日本をすぐに統治下に置いた。
日本が頼りにしていた、日米安保条約も、結局はアメリカも自国が第一で大国との直接の殴り合いは避け、ただ、アメリカは議会で非難決議をするだけに留まった。
海外の軍隊に蹂躙された地域の住民は、ただただ逃げ惑うだけで、戦うという発想すら持っていなかった。
しかし、状況は少しずつ変化していた。
日本を攻め込んできた某国は、北側の別の大国からの進軍を受けるという目に合ったのだ。
日本に駐留している、某国の軍人の多くは自国の警護にまわされ、明らかに日本は手薄になっているのが目に取るようにわかったのだ。
戦うのなら今しかない。
日本人、誰の目にも明らかだが、ただただ覚悟が必要だった。
革命
ティーパックの中の茶柱に生まれ変わった俺は、何日、何年、ただただ同じ暗闇を過ごしていたろうか。
もう、いい加減、茶柱であることにもすっかり飽きてしまった。
もし、世の中に輪廻転生があるなら、もう少し刺激的な生まれ変わりを期待したいものだった。
しかし、変化は突然訪れた。
人の話し声が聞こえてきた。
「戦うには今しかないと思うんだ。」
戦う??俺が茶柱になってから世界はどうなっているんだ。
まぁ、そんなことはどうでも良い、俺はただ、ティーバックの包装に書いてある俳句が読みたいんだ。
お湯が沸く音が聞こえてきた。
何人かの話声が聞こえてきたがそんなことはどうでも良い、最初で最後のチャンスだ、自分はティーバックの包装に書かれている俳句が読みたいんだ。
ピリッと包装が破かれた。
今まで永遠と思われた暗闇に光がさした。
ティーパックはお湯の中に放り込まれた。
火傷するような熱いお湯が居心地よかった。
必死になって開けたティーパックの小さな穴から飛び出ると包装に書かれている俳句を渾身の力を使って身を立てて見ることにした。
3月の甘納豆の…。
「茶柱が立ったぞ」
日本国首相、いや、いまや革命軍トップと言った方が正しいだろうか。
茶柱が立つことで覚悟ができた。
幸先が良いようだ、さぁ、日本を取り戻そう。
皆、武器を持て革命を起こすんだ、日本を取り返す。
暗闇の先に光はある。
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