けたたましい羽音ともにイナゴが飛び去った。
村の植物のほとんどに歯型がついた。
アフリカで発生したイナゴの大群は海を越えインドまでやってきた。
多くの小麦畑が荒らされ、多くの農民が頭を抱えた。
元々、決して豊かではない村だ。
村人たちは飢えに苦しむのが目に見えていた。
世界農業研究所のリンダはこのイナゴの大量発生への対応を迫られインドへ訪れていた。
イナゴは東へ東へ渡っていき、予測では中国まで行く可能性が高いらしい。
中国でイナゴの大量発生が起きれば人類にとって致命的だ。
中国は世界の食料生産の一翼をになっている。
既に投機家達は食糧危機に喜々として小麦の買い占めに走っている。
食料が足りなくなって困るのはまずは貧しい人だ。
食べることができなくなった農民は怪しい人身売買に子供たちを売りに出す。
そして、来年の小麦を育てるための種として保管している小麦まで食べ始めてしまう。そうすれば貧困は永遠のものとなってしまう。
インドでイナゴに荒らされて呆然と立ち尽くす農民の目と。
アフリカで飢えに苦しむ人々の目がリンダの脳から離れないでいる。
そんなリンダに一通のメールが届いた。
恋人のボブからだ。
~リンダ ついにイナゴから世界を救う術は完成したよ~と
リンダは急いでアメリカのシアトル行きの飛行機に乗りボブに会いに行った。
ボブはシアトルでバイオテクノロジーの研究をしている。
かつては遺伝子組み換えの大豆で大きく会社に貢献したらしい。
「やぁ、リンダ、会いたかったよ」
いつもと変わらぬ笑顔でボブはリンダを出迎えた。
リンダは「メールに書いてあるイナゴから世界を救う方法って何なの?」とボブに訊いた。
ボブは「そんなに急かすなよ、少しは恋人気分を味合わせてくれよ」と冗談っぽく笑ったあとに「こっちへ来て見てよ」
と、リンダを手招きした。
リンダは研究所の奥へ進んで行った。
研究所では小麦や、米などの植物以外にもウサギや豚など多くの生き物が研究対象になっているようだ。
どんどん、奥に進んで行くと少し開けた部屋に辿りついた。
「こらがイナゴから世界を救う秘密兵器さ」
そこには小さなプールがあった。
リンダはプールを覗き込むとふてぶてしい顔をした牛蛙がたくさん飼われていた。
「かえる?これがイナゴに関係あるの」リンダは言うと
ボブは「これは遺伝子を組み替えられた特別な蛙なんだ、乾燥、病気に強く、雨が降ったら大量に産卵し、あっという間に大人になる。どんどん増えて虫を食べてくれるんだよ」
リンダは大きくため息をついた。
「そんな、生態系が狂うかもしれない生き物世界に放つわけにはいかないわ」
ボブはそれを聞くと急に真面目な表情になった。
「そもそも、農業自体が生態系を破壊しているじゃないか。人間は環境を自分たちが生きやすいように変化させられる唯一の生き物なんだ。イナゴの大量発生だってきっと人類の活動の結果だよ。それを解決するのも人類の役割さ」
リンダは少し考えさせてと言い残し宿泊するホテルへと戻った。
ホテルでパソコンを開くと『緊急』という文字が入ったメールが届いていた
メールには動画が添付されていた。
メキシコにて大量のイナゴの発生。
それは悲惨な光景だったメキシコで大量に発生したイナゴがあたりかまわず植物を食い荒らしている。
そのイナゴがいずれアメリカへやってくるだろうことは自明の理だ。
「迷っている暇はないのかもしれない」
リンダは世界農業研究所にすぐに遺伝子組み換え牛カエルの件を提案した。
当然のように初めは多くが反対意見だった。
しかし、現実は残酷なものだった。アフリカでイナゴの第二波が発生し一部は北上し欧州へ向かい始めている。
中米のイナゴ達も殺虫剤は全く意にも介さずどんどん北上を続けている。
投機家達はどんどん小麦の値段を釣り上げていく。
こうして、遺伝子組み換え牛カエルは世界中に放たれた。
予想以上にあっという間にイナゴを蛙が食い尽くした。
それが第2の絶望を呼んだ。
イナゴを食べつくし増えすぎた蛙が次に狙った昆虫は蝶やハチたちだ。
蝶やハチがいなくなってしまえば、多くの農作物が受粉出来ず、果実を得ることができなくなるなんてことは蛙には知らない人間の都合だ。
大量の蛙たちはインド、東南アジア、そして東アジアへと向かって行った。
人類の絶滅はほんの先まで迫ってきた。
「幸子、ご飯よ」
「はーい、ママ」
幸子は漫画世界歴史伝を置くと急いで食卓へ向かった。
「ねぇ、ママ、人を滅ぼしかけた蛙はそのあとどうなったの」
母親は笑顔でこういった。
「その、蛙は唯一苦手な菌があったのよ。最後には蛙にその菌の大発生でみんな死んでしまったわ」
世界中の遺伝子組み換え牛蛙はあっけない終わりを迎えた。
遺伝子組み換え牛蛙の身体にナメコ菌が発生、次々と牛蛙の身体になめこが生えてあっという間に絶滅した。
「なめこの味噌汁美味しいわね!ママ!」
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