愛情とは厄介だ。憎しみと隣合わせだ。
北海道オホーツクに産まれた私は、ありふれた少年のように都会へ出ていくことを夢見ていた。
ここを出たら何か違う世界が待っているんじゃないだろうか。
ここを出たら『本当の自分』に出会えるんじゃないだろうか。
人生は紆余曲折し、曲がりくねっていて気がつけばオホーツクの地を出ないまま時が過ぎていた。
日本なのにカタカナ表記のオホーツク。
冬は寒くて夏は暑いオホーツク。
中二の頃の外へ出ていきたい思いを抱えながら、このオホーツクのどこまでも続くような青空を愛していた。
~春~
春めきて青よりブルーっぽい空
啓蟄の背伸びは少しよく伸びる
冴え返る真昼間の椎名林檎
花冷えの色で選んだグリンティー
春の空可愛さこそが君の罪
源流は猫のあくびの春の風
死ぬことは何時でも出来て光る風
春一番甘味の薄い角砂糖
モダンタイムス借りて帰れば淡雪
別れこそ格好つけて風光る
飽き果てた街はモノクロ春の虹
俳句の才能恐らく無くて春の雷
この街の子守唄ごと流氷鳴る
春の風邪治る頃には終わる恋
国道に並ぶ眼光春の鹿
星降って雪虫生まる北の国
ソーシャルディスタンス雪虫を払う
白球は真っ直ぐ空へライラック
~夏~
夏きざす青空町の青い空
薄暑あり大きく笑うおじさんよ
涼しさを恐れ百年オホーツク
夏の朝ひもの緩んだスニーカー
恋だもの虹の一つは出るだろう
薫風を肺に満たして走る朝
愚痴なのか惚気話かソーダ水
空色のサイダー時計を見る君
ロシアから来た風流す扇風機
雲の影がゆっくり過ぎる貸しボート
汗拭うとき空はいつも青色
蜻蛉生まる空の数だけ飛ぶように
トマトを齧る吾の中の野生の血
国道に玉葱一つオホーツク
秋近し隣の居ないジャズの夜
~秋~
秋の虹へ自転車をこぐ坂をこぐ
秋高し新発売の缶コーヒー
美男子は秋時雨を浴びて生まる
道にななかまど鞄に参考書
大地の神が踊り蒸かし芋の香
~冬~
街は冬晴れ初めて馬券を買う
拳銃握り眠る子へ冬夕焼け
氷柱が伸びて小さき星が一つ消え
初氷一人密かにケンケンパ
外套被る空を割る如き風
窓に冬木立ポッキーほろ苦い
恋人の行き交う街に水洟の吾
踏切の音が響いて聖誕夜
雪を搔く時の止まりを搔く如く
息白しどうやら我は生きている
この山の枯れ葉踏むしんがりは猫
朝、昼、夕、春、夏、秋、冬。
空が色を変えていくように、自分のオホーツクへの思いは変わっていく。
オホーツクの青空はいつも突き抜けるように真っ青だが、それを見つめる私は変わり続けるのだ。
これらの俳句の著作権は当然ながら私の物とし、複写等は遠慮していただきたい。
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