この句集は自分が初めて介護という仕事に携わったときの経験から生まれた句集である。
自分が初めて勤めた職場は鼻から管を通したり、胃に直接穴を開けて管とつないで栄養剤を投与する人がずらりと並んだ俗にいうながた病床だった。
自分が介護職場に勤め始めた頃はようやく日本に介護保険制度が生まれた介護保険黎明期であった。
そんな、日本という国が変わりゆく瞬間に立ち会えたのは極めて幸せなことだったと思う。
俳句を作るにあたって思いが強すぎ、いささか筆が走り過ぎたところがあるかもしれないが、どうかご勘弁していただければと思う。
~春~
ながた病床カーテン揺れて桜まじ
病室のベッドが空いた風光る
春光の日舌磨き新しくて
眠れないの眠れないよね春の雨
経鼻栄養そっと朧を注ごうか
レクリエーションダンスフィーバー山笑う
~夏~
溽暑あり病室の床ずれ臭う
床ずれは骨まで見えて夏の夜
刻まれた冷や麦を介助す落ちる
四肢拘縮サチュレーションと夏の月
汗は良い入浴の介護は好きだ
吾は夏痩せて消えてなくなりそうだ
~秋~
夜長し心電図のモニター音
もっと抓れよババアは逝って月満ちて
患者家族の別れ挨拶秋高し
天の川死ねば誰でも逢えるのか
終戦記念日オムツ交換に追われる
便まみれのじじ様よ星月夜
吾の歩き方が変らしい身に沁む
消費期限の介護士色なき風
~冬~
冬の朝手指がなんだか便臭い
冴ゆる朝胃婁が抜けた臭い満つ
あーあーと語る爺の日向ぼこ
寒雷やどら焼きはやはり大丸
寒夕焼け病室がなんだか綺麗
ナースコール少し静かな大晦日
オリオンや死には慣れぬと決めたから
結局、自分が病院で勤めるのはわずか2年たらずのことだった
最終的に体調を崩し、病院を去ることとなる。
これらの俳句の著作権は当然ながら私の物とし、複写等は遠慮していただきたい。
引用等をする場合には著作権法に則った形をお願いする。
イイネやSNS等で拡散していただけるととてもありがたい。
ランキング応援クリックお願いします